井上勝夫先生著 「テキストブック児童精神医学」

聞き取りと見立てを学びたいが、何を読んだらいいですか?に応えて

この質問に即座に応えられなかったのですが、

 「この診断名はどういう症状なのか」ではなく
 「こういう症状(訴え・観察されること)があったら、どういうことを考えていけばよいのか」
 「どのようにして聞くべきことを尋ねていけるのか」
というお尋ねと理解しました。

思い出したのが だいぶ以前ですが、インテークのあと、ご担当の主治医から

 「このような内容はどのように聞いていくことで得られるのですか?」
 と率直なご質問をいただいたことがありました

そのときも 「え?」とお答えが見つからずにいて

 「あ、いえ、これは職人芸のようなもので、すぐに言語化は難しいのだと思います」

   とフォローいただいたのですが

職人芸とは過分なお褒めの言葉ですが、つまりは年の功のようなものもあるわけで、そうした脳内のいわば羅針盤やセンサーは多くの師匠(書籍も含んで)や出会ってきた患者さんたちによって、育てていただいたものともいえます。言葉にしていくことは義務ともいえるでしょう。

ワタシにもあった新人の頃、故 吉田邦夫先生から、しばしば「入院時に看護師さんのとった病歴あるけど、とりなおしして」と依頼を受けました。ご家族とご本人から「追加の聞き取り」をしましたが、そのあともご報告しても何度も「とりなおしして」と。浅はかなわたしは(先生、見てないのかしら)と思っていました・・・。「何を聞くか」だけではなく、「どのように聞くか」、いえ、「聞く」というよりも「どのように理解しようとして、どのような言葉で尋ねているか」によって、現われてくるものは全く異なる。

とはいえ、私などが悪戦苦闘するよりも 「ことば」「ひと」をあたたかく ていねいに(専門職としての在り方にはしっかりと)語られる2冊をどうぞ。何度も読まれるのが良いですし、平易に述べられていることばですが、その深さをじっくりと、複数のメンバーで読み合わせていくのもよいでしょう。

ひと とかかわって ものごとを考えていくうえで、リベラルアーツがいかに豊かさをもたらしてくれるか、も感じ取ることができるでしょう。

テキストブック児童精神医学 日本評論社 2014

テキストブック児童精神科臨床 日本評論社 2017

井上勝夫先生は 2021年9月56歳でお亡くなりになりました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

直接ご了解いただけないことが残念でなりませんが、折々に大切な言葉をご紹介していきたいと思います。