ICD-11 における排泄症群と心理臨床
子どもの排泄
2023.07.03
森野百合子先生「ICD-11における排泄症群の診断について」を読む ①遺糞症
日本精神神経学会 連載 「ICD-11「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ 各論」から
お読みいただく前提として以下をご確認ください。
精神神経学雑誌 123巻1号から開始した本連載*では、ICD-10からICD-11への切り替えに備えて、ICD-11の第6章「精神,行動,神経発達の疾患」(Mental, Behavioural or Neurodevelopmental Disorders:MBND)を中心に、精神科医療とかかわりの深い疾患分類の説明,ICD-10からの変更点やDSM-5との相違点,そして病名・用語の和訳などについて解説しています。本webページでは精神神経学雑誌の連載を集約して紹介いたします。
なお、病名・用語の和訳は精神科病名検討連絡会で継続して検討しており、最終的には厚生労働省と総務省の承認を待たないと確定はしません。今後、変更が加わることがあることをご理解ください。精神科病名検討連絡会座長、ICD-11委員会委員長
引用元:日本精神神経学会
神庭 重信
「連載 ICD-11「精神,行動,神経発達の疾患」分類と病名の解説シリーズ」より
2023年1月25日更新日
ここでは ICD-11における排泄症群について、森野先生の解説を引用させていただきながらご紹介をしたいと思います。専門職の方は是非ご自分でもアクセスして全文をお読みください。
「精神、行動、神経発達の疾患」のなかに
「排泄症群 Elimination Disorder」の分類があり
「遺糞症 Encopresisi」「遺尿症 Enuresis」に分けられています。
このうち「遺糞症」は以下の二つに分けられています。
6C01.0 便秘および溢流性便失禁を伴う遺糞症
6C01.1 便秘および溢流性便失禁を伴わない遺糞症
便塞栓とそれをすりぬけることで生じる漏便(paradoxical diarrhea)についての知識が必須であることがわかります。
便秘及び溢流性便失禁を伴う遺糞症
*こちらのタイプが多くを占める
*トイレを避けることによる便秘の既往が多くにある
*排便時の痛みや腸の動きによる痛みを避けようとすることの結果である可能性
*特定の恐怖症や社会不安症から生じることもある
便秘及び溢流性便失禁を伴わない遺糞症
*社会的に適切とされる場所へ排便する社会規範に従えない、または従うことへの抵抗という性格がみられる 反抗挑発症や素行・非社会的行動症による可能性
これは少しイメージしにくいかもしれませんが、強い頑迷さ(しなさいと言われるほど強固に従えなくなる)があり、怒りや不満の表現として故意に排便するようなケースのことと考えられます。
いかがでしょうか。便ができて体の外へ出ていくということは「身体の自然な現象」なのですが、それをおこなうことは「行動」であり、その行動には感情や考えが伴っています。排便に伴う痛みや苦しさを体験したら、恐怖を感じ、その恐怖を味わう場面を回避しようとすることは自然なことです。ひどく痛い思いをしたのにまた同じことをしようとするほうが不自然でしょう。
ここで大事なのは「避けるべき」なのは排便ではなく、「苦しく痛い排便」だということを子どもに伝えること、説明することです。そしてその恐怖をどんなに苦しいことだったかと理解していることを伝え、「だからこそ」この出口を阻むヤツをいっしょにやっつけよう と、チームを結成するのもよいでしょう。
粘土でコロコロ固い便やどろどろ便をいっしょに作って、マジックバルーン(100均でもあります)に通してみてはどうでしょう。
ひとりひとりの子どもの毎日の生活を知り、家族の日常を知り、好きなこと、得意なことをお話してその子どもと家族の力(資源)を見つけること。
強すぎる恐怖や怯えをよく理解して、時にはその「トラウマ」の影響を和らげるように、エヴィデンスのある安全なスキルを提供すること。
子どもの心や行動の仕組みをよく知る者として、丁寧に、プレイフルに、アプローチ。これは心理臨床の得意とするところではないでしょうか。