一番効果的な(すぐれた)心理療法は何か?

「こんなはずじゃなかった」という声にお答えしてみます

ここ2.3年ほど 何人かの方から同じような声を聴いてきましたが、必ずしも心理療法をしている方ばかりではないので説明がうまくできませんでした。

でもうやはりこの観点からお伝えするのが一番かなと思いなおしまして取り上げてみます。
「○〇の相談者には何をしたらいいですか?」という質問に、残念ながらなかなか親切にお答えできない理由も少しはご理解いただけたら嬉しく思います。
なお伺っている様々なお話から架空のエピソードにしています。

* 「〇〇療法」で以前はよくなった人がいるのに、同じことをやっているのに今回はどうしてスムーズにいかないのか?

* クラスメイトとトラブルになって怒りが収まらない生徒に<深呼吸をする その場を離れる>方法を教えたらきいていたが、あとで「全然効果ない!」とこちらにイライラを向けられた。

* エビデンスがある という心理療法のセミナーも受講して、決められたとおりに実施しているのだがいっこうに変化が見られない。そもそもいわれたことをクライアントがまじめにやってこない。

この答えは 
「どの心理療法が一番優れているか」という論争と研究 そこから続く
「心理療法を効果的なものにする要因は何か」 にあります

①⓶について
 杉原保史先生の論文をぜひお読みください。
 「心理療法において有効な要因は何か?  ー特定要因と共通要因をめぐる論争ー」

なぜ様々な心理療法の「マニュアル化」が進められていったのか、逆に言えば「マニュアル化に適合した心理療法が主流になっていったか」が整理されるでしょう。

” 1980年代頃から、心理療法は、薬物の効果を検証するために医学で用いられている調査モデルによって検証されることが増えてきたわけだが、このことは、心理療法を医学的な治療として概念化する見方を優勢にし、結果的に、この時代の心理李療法に関に大きな影響をもたらした。言い換えれば、特定要因を重視する見方を強め、共通要因を重視する見方を弱めた
心理療法の対象はクライエントという「人」ではなく「診断」であるという見方、心理療法の治癒力はセラピストという「人」ではなく「マニュアル」にあるという見方が優勢となった
心理療法において、診断以外のクライエントの個人的要因と、マニュアルを遂行する以外のセラピストの個人的要因は周辺化された。”

 p4より引用

 これに対し、1999年から、アメリカ心理学会によって 大規模なクライエントの数と幅広い対象をもとに研究調査が継続的に行われており、2019年に約10万人のクライアントデータによる結果が以下の通り。<有効性が証明される(エビデンスのある)治療関係の要因>を Norcross,J.C. & Lambert,M.J. が発表している。(メタ分析の経緯も上記の杉原先生論文を読みましょう)

[ Effective Elements of Therapy Relationship ]

* Alliance (作業同盟)

* Cohesion in Group Therapy
  (グループ療法における凝集性)

* Empathy(共感)

* Collecting Client Feedback
  (クライアントからのフィードバックの活用)

* Goal Consensus(目標の合意)

* Collaboration(協働)

* Positive Regard/Support
   (肯定的関心と承認)

作業同盟(治療同盟)を取り結ぶことに苦心を重ねる過程そのものが治療的だともいえるでしょう。
そこには 共感 や 肯定的関心 といった心理療法の基本的な技術が必須であるわけだし
治療者側の一方的な教示や教育ではなく「合意に向かって対話を重ねていく、そこにはクライエントからフィードバックされた言動を丁寧に取り扱い、生かしていく、協働」が重要 ということになるでしょう。

作業同盟・治療同盟を取り結ぶ 
この視点が欠けている疑問・質問が多いのだと思うのです。
このような部分は本を読んだり、マニュアルを参考にして身につくことではない部分です。
治療関係について助言を得る ということを重ねてこそ身についてくるものでしょう。

「誰でも気軽に試してみよう」というスキルやターゲット と
そういうわけにはいかない スキルとターゲット を 分けて考えることも大事でしょう。

アメリカで開業臨床をされている 服部信子さんのYouTubeもぜひ視聴してください。
「臨床効果の最大要因」として上記の研究を紹介しています。
服部信子さんのYoutube はこちら 

服部信子さんはほかにも最先端のこと、本質的に重要なこと、そのほかについて丁寧で有意義な解説動画を提供されています。アメリカと日本の心理職の養成課程の(驚異的な)相違点なども、ご存じない方は視聴してみるといいでしょう。