摂食障害「行動制限療法」の治療効果とは?

なぜ「行動制限療法」で”よくならない”のか?
いずみハートクリニック 泉和秀先生 コラムより

入院になる体重、入院中の行動の制限を解除する体重、退院できる体重

体重と行動の制限(その解除)が連動しているこの方法は、摂食障害治療の中でもよく知られた方法であるといえます。
入院生活で体重を増加させ、退院となった後は、
過食(大食)に転じた混乱と恐怖から興奮・暴力が起ころうと、
終日の過食嘔吐に至って浪費に苦悩しようと、
「もう体重はふつうなのだから」とどんなに訴えても<退院後の通院ははじめから月1回>

こんなお話を何年もの間、何度も耳にしてきました。

体重増加の恐怖と おしよせる反動としての大食の衝動と 体重減少して再度の入院を全力で回避する
その三点のバランスをとっている
のがこの状態であるともいえるかと思います。とはいえどんなにか苦痛と恐怖と孤独に満ちたこころのありようであることでしょう。


「ひとりぼっち」なのです。

摂食障害(拒食)の入院治療の目的はどのようなものでしょうか。
「痩せによって陥った誤った認識にとらわれたまま亡くなることを阻止する」
(なにより治療者はじめ家族、本人と”魔物モデル”、飢餓症候群など、理解を共有します。”あなたと争うのではなく、魔物にとらわれているあなたを全力で救出する”という確信に満ちた態度です)
「本当に取り組むべきことは”食べ物”ではなく”こころ”のことだという理解へつながるかかわりを形成する」(魔物の手からいっしょに逃れるには、入院中週1回の心理面談(しかなかったと聞くことは少なくないです)では外野から応援しているだけ・・ではないかと思います。もちろん共感とか受容とかではなんとかなるものではありません)
「反動としての食への衝動を安全に乗り切る」(入院中から徐々に”本当は食べたくて仕方なかった食べ物”を管理しながら間食に取り入れていきます。soft landingが必要なのです)
「突発的な大食によるrefeeding syndromeの予防」

「機械的な単なる体重設定と行動制限」は行動制限「療法」ではない、はずなのです。
山上敏子先生の行動療法がきわめて精神療法的であるといわれるように、
「本当の行動制限療法」もきわめて精神療法的に機能するための「条件」があるでしょう。

治療効果の最大要因は、技法ではなく「患者治療者関係」(関係性)というのは臨床家の皆さんよくご存じでしょう。「即応性」も重要とされます。即応性を支えるのは十分な病態(病理)の理解とジェネラルアーツも大切(村瀬嘉代子先生)かもしれません。

お若い時から摂食障害の方にかかわり、さまざまな場で取り組んでこられた泉和秀先生の語られていることは、細かな工夫の点でも私の思うところと非常にぴったりと一致していると感じました。ご著書はないようですが、クリニックのコラムでシリーズがありますので是非お読みください。

一部引用させていただきます。

摂食障害治療において体重の回復は大切なことです。
しかし、治療の最終目標を“体重を増やすこと”に置くのであれば、治療の本質を見失い、しばしば再発を繰り返すようになります。

治療においてみるべきものは常にその心です。
頭でわかってもしばしば行動につながりませんが、心でわかったものは必ず行動に表れます。
それが一定レベルを超えた行動になると、体重につながるのです。

この論理を理解しておくことが重要なのです。
では、「結局は体重が増えればそれでいいのではないか?」と思われるかもしれません。
そうではありません。
この論理を理解するならば、
「その体重が増えるときの心が、どのような心なのか?」
「どのような心が行動につながり、体重の回復につながっているのか?」

そこを見なくてはならないということです。

例えば、入院治療が始まったところ、体重を増やさないと退院ができないためにとにかく体重を増やそうとするということがあります。
そのときの心が「とにかく体重を増やして病院を出たい」という心だけで頑張っているとき、本人の心の目標は“治すことではなく、退院すること”にあります
であれば、退院すると同時に目標は達成されてしまうわけですから、再び病気の自己にとらわれて食べられなくなり、体重は減っていくわけです。

体重だけを見る治療ではこうした落とし穴に落ちるわけです。 
摂食障害の治療には行動制限療法という治療法がありますが、この治療は施設によって治療成果にかなり差があるそうです
それは行動制限療法の表面的な技術だけを見て体重を増やすことだけを目的としているのか、それとも、体重を増やす過程にあるそのを見つめながら治療を行っているのか、その差だと思われます。よって、ここで述べたいのは「摂食障害治療における目標体重とは?」というテーマを語るときに「治療の本質を見失わないで下さいね」ということです。
結果として目標体重というものがあり、それを目指すことが必要なのですが、それ以上に見つめるべきはその心です。


「どのような心が行動につながっているのか?」
「その心が根本的な治癒につながる心なのか?」
その視点を忘れてはならないと思います。

いずみハートクリニック  泉 和秀院長
https://www.izumi-heartclinic.com/library/
摂食障害治療における目標体重とは?②
2014年03月14日